夜想曲集 -- 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 -- / カズオ・イシグロ

≪感想文連載第1回≫ この本を最初にみつけたのは、6月の終わり頃だった。 たまには買い物でもと、駅前まで行った日。 駅前の本屋「ビギニング」に寄ったらすぐに、平積みになっているのをみつけた。 その時は「イシグロの新刊出てる!!んな話し聞いてないよー」と、一瞬ものすごく嬉しくなってすぐに買おうと思った。のだけど、よく見ると長編ではなく短編集らしくて、わたしとしてはイシグロの本はトグロを巻くような長編であってほしく、その中で人と人が優しい思いやりの心を互いに持ちながら、擦れ違ったり行き過ぎたり実は自己本位だったりして頓珍漢な方向へと突っ走っていく様を、いつ終わるとも知れず長い夜の友としながらずーーっと読んでいたい………といった構想でいたから、短編だとすぐに終わってしまうし、小器用にまとめてありそうでイヤだなと、勝手に先入観をもった。

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現代帝国論 / 山下範久

今かなり頭が痛い。読んだはいいけどさっぱり分らなかったからだ。けど、せっかく読んだものはレビュウを書きたいという欲求は捨てがたく、オノレの欲望と「わかんねー」という現実の間で引き裂かれ脳が悲鳴をあげている。ここを一歩間違うと個人的に無気力へ陥ってしまうので、何でもいいから書いてしまう、ということで乗り越えようと思う。

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私の男 / 桜庭一樹

 私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた。日暮れよりすこしはやく夜が降りてきた、午後六時過ぎの銀座、並木通り。彼のふるびた革靴が、アスファルトを輝かせる水たまりを踏み荒らし、ためらいなく濡れながら近づいてくる。店先のウインドゥにくっついて雨宿りしていたわたしに、ぬすんだ傘を差し出した。その流れるような動きは、傘盗人なのに、落ちぶれ貴族のようにどこか優雅だった。これは、いっそうつくしい、と言い切ってもいい姿のようにわたしは思った。

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チェーン・ポイズン / 本多孝好

今年の正月はとてもいい正月だった。ノンビリと家族と過ごせた。その最大の理由は、家族の中にあったいろいろな誤解や感情の行き違いが解消されて、穏やかな気持ちを取り戻せたから。だから三が日のうちに近所へお参りに行って、帰りに安いファミレスでどんどん注文してたらふく食べて、もちろんわたしは赤ワインをデキャンタ(大)で頼んでがぶがぶ飲んで、その帰りにみなにお年玉をたくさん上げて、どんどん金つかえーー!!とか景気良くけしかけつつ、安上がりに古本屋の大きいのに行ったのだった。

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風花 / 川上弘美

以前感想を書いた川上弘美の小説は『真鶴』で、約1年前だった。『風花』は川上氏の出版物として『真鶴』の次作で、タイトルが同じく漢字二字であるあたり、大きく志向が変わったのではない印象で、そこらの安心感を抱きつつ読んだ。

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