夜想曲集5

≪感想文連載第5回≫

ニアネス・オブ・ユー、イメージ映像1「夜想曲」
【参考資料】
出て来る楽器:サックス 場所:ビバリーヒルズのとあるホテル 出て来る音楽:「ニアネス・オブ・ユー」 おもな登場人物:売れないサックス吹きのスティーブ、セレブのリンディー・ガードナー

華やかなエンタメ作品であり、人物立ち上げるの上手いなぁと感心する1作でありつつも、エンタメ系小説によくある「映画化ねらい」な下心がまるでないのがすごいところだ。
なんでないと言えるのかというと、描かれている状況が、<整形手術をし終わったあとの、包帯で顔をぐるぐる巻きにされている期間>だから。たいがいの映画は、俳優の顔を見るので70%くらいは費やされている。顔という入手不可能な、それゆえ人の欲望ともっとも結びつきやすいパーツが商品化された形が映画なのである。と言い切ったらそりゃ乱暴な話で、よい脚本よい演出があってこそ生かされるのが顔であるから、顔が全てではないけど。


その反対に、映像化され得ないものを描いているのが小説だ。映像化されないものは物質化しないし、コピーも不可能であるから金にならない。つまり、小説とは資本主義社会との戦いであるはずのものだ。が、ここまで資本主義の勢いがすさまじいと、小説は劣勢になるばかりで、まるで勝ち目のない戦いに見える。
そこらへん、どうなんだろう? しかしこの作品に限っては、そうそう一方的には負けてはいない雄姿を見せてくれて、とても頼もしい。

にしても、色々と質問を浴びせかけてくるような短編だ。
そのくせ、わたしにはまるで答えを出すことができない。
いったいどんな質問なのか、箇条書きにしてみようか。


Q1.あなたは素晴らしいサックス吹きだ。黙っていてもいつか誰かが認めてくれると思う?

Q2.売れっ子になるためになら、自分を裏切ってもセレブに媚を売るべきだと思う?

Q3.売れっ子になるためなら、音楽のプライドを捨てでも、整形手術をするべきだと思う?

Q4.そもそも売れっ子になるのって、よいことだと思う?


売れっ子になりたいのならQ1はNO!! けどそれ以外はYESに決まっているよ!! Q4だってYESだよ!!売れないより売れる方がいいに決まっているよ!!整形だって100回でもするべき!!


うん確かに。今箇条書きにしたら、すっきりと答えが出てしまった。変だなさっきまで悩んでいたのに。
この手の問いに悩むとき人は、「成功に導く秘訣」みたいな本を読んだり、願望とそれを阻む障害を対照表にしてみたり、到達点を明確にしてみたり、そのためのフローチャートみたいのを作ってみたりする。そのことにより、願望の明確化が計れ到達もしやすくなる、と言われているからだ。

けどスティーブはいつまでもグズグズしていて、金にも人気にも不器用。音楽の女神を信奉している風だから、売れっ子になるための小手先のことなんかは真っ平ごめん。芸もないのにセレブになったリンディのことは馬鹿にしくさっている。だけどスティーブの「才能」に敏感に気づいて独特のアクションを起こしたのもリンディでとてもチャーミング。けど疑ってかかると、そのアクションだって天性なのか、それともセレブでいるための独自の戦略なのかわからなくなる。それをいったらスティーブのサックス吹きの才能だってあるのかないのか、自分では自信たっぷりだけど、どうなんだろう。

売れっ子になる方策を完全に間違えてしまったスティーブに、最後は同情とも共感ともつかないものを感じつつも、なんかイライラ感が残る。それに、スティーブはリンディに対し冷たすぎたのじゃないかと思う。中身がどんなオンナであれ、あそこまでしてくれたのに。それとも、顔が見えなかったから、恋愛感情がわかなかったとか?
そのせいで、みょうに寂しい寄る辺ないラスト。
フローチャートや箇条書きでは言い表せない、人の心の不確かさと寂しさが、スティーブの音楽への確信も確証も奪ってしまった、かのように。


スティーブは、この先どうなるんだろう。
それに、包帯を取ったら、どんな顔が現れるのだろう。



付:
Michael Brecker & James Taylor : The Nearness of you
The Nearness of youの歌詞
みなさんの好きなサックス奏者は誰ですか

このニアネス・オブ・ユーという曲、やたらめったら色んな人がカバーしているのはいいけれど、肝心のサックス演奏が聴けるものが少なくて困ってしまった。その代わり、素人さんとおぼしき人が何人もサックス演奏にチャレンジしてYouTubeにupしている姿を見た。一方、ノラ・ジョーンズのような有名シンガーによるボーカルなど、この数日はニアネス・オブ・ユーばっかり聞きまくった。正直この甘たるい歌は何回聞いてもあまり好きになれなかった。その後スティーブの言ってた事を考え直すと、ふつーにラブソングなんだからそんなにプライド高くなくていいんじゃない?とか思ったり。リンディを馬鹿にするのもなんか変な話だよなぁとか、いろいろ思った。


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